ある日のBar

2010年11月17日

いかついやつが、ぬっと入って来た。
足元がふらついてる。顔は無表情だ。スキンヘッドで、こんなのを蛸入道と云うんだろうな。
マスターは、「いらっしゃい」とは言わないが、目元が笑ってるように見える。怖がってる様子は無い。

座るなり、そいつは「何でここに来たのか解らないんですよ」と呟くように言う。
マスターは黙ったままだ。
これは哲学的な問いかけなのだろうか?
あるいは、こいつはマスターに負い目でもあるのか?
何々のために、あるBarに行って呑むと、明確な答えを持って呑み歩くやつは、あまり見かけない。

「解らないんですよ」......オッ、やはり、てっ哲学か?
「納得できないですよ、俺」
マスターは黙ったままだ。
いったい何が解らなくて、何が納得できないんだ?オーダーはしないのか?と、俺は思ってしまう。

「しほの姉さんが入院したから、帰るって言うんですよ」
「俺、納得できないす」  オッ、ちょっと現実的になってきたな。でっ、何が納得できないんだ?と、俺は思ってしまう。マスターは黙ったままだ。

「それも明日、急に。正規の航空券で。2万5千円もするんですよ。母親もいるし、死ぬほどの病気じゃないんですよ。」
オォ、かなり現実的になってきた。マスターは黙ったままだ。

「俺、どうしたらいいんですか?俺、自分の母親が入院しても、しほを放って帰ったりしないですよ。」

「何で、急にかえるんすか?俺、納得できないです」
沈黙してたマスター「まーさん、淋しいんだね」

そいつ、急に泣きはじめた。
そんなことで泣くな!蛸入道。オーダーはしないのか?と、俺は思ってしまう。




tsuchi│2010年11月17日 01:25 │コメント(0)
 
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